国立大学の独立行政法人化に伴い、これまで内科学第1、内科学第2、内科学第3の各講座にあった心臓血管病の診療チームが一つとなり、2004年に循環器内科の大学院講座(臓器発生制御医学講座)が開講されました。

2012年に大学院改組に伴い、大学院講座から医学部講座へ移行となり、名称も医学部循環器内科学教室(内科学第5)に変更となりました。開講から8年目にやっと臨床医学教室としての体制が整いました。

虚血

信州大学循環器内科は、動脈硬化による病気である狭心症や閉塞性動脈硬化症、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療を24時間365日行っております。

健診の普及などのスクリーニング体制の充実とともに、冠動脈疾患でお困りの患者様も増加傾向にあり、冠動脈治療(PCI)の件数もこの数年で増加しております。長野県が日本一の長寿県であることを考えると、今後も増加傾向をたどると考えられます。しかし、その増加傾向にベッドがついていかないという問題があり積年の課題となっております。その解決策として、2012年から外来スタッフの協力を得て外来日帰りカテーテル検査の体制を充実させることを行っております。また、院内でも屈指の短期入院期間を実現することで多くの患者様の受け入れを行えるよう努めております。

治療内容もプレッシャーワイヤ―や各種イメージングモダリティを駆使して治療戦略を練り、必要であれば最新式のロータブレーターや方向性アテレクトミー(DCA)、そしてエキシマレーザーなど先端機器を用いて安全かつ最良の治療をご提供しております。近年では長野県内ならびに近隣の県における治療困難症例を多数受け入れており、治療内容が複雑化しておりますが、放射線技師・看護師をはじめとしたプロフェッショナルなスタッフの協力の下で円滑な治療が行える環境を維持しております。

また、若手・ベテラン・メディカル・コメディカル関係なく全員が積極的に外回りの仕事を行うことで、カテーテル室の雰囲気も明るいものとなっております。これは心筋梗塞のような緊急症例を24時間365日受け入れていくのに非常に重要です。休日・夜間などどうしてもスタッフが少なくなる時に、円滑なコミュニケーションをとりながら連携して診療していくのは、結果的に患者様への治療の成否にかかわる重要な要素だからです。

予防医学にも積極的に取り組んでおります。特に力を入れているのが脂質異常(高コレステロール血症)です。この診療は動脈硬化を進めないようにするために非常に重要で、常に高い関心を集めている分野です。中でも家族性高コレステロール血症は管理が困難で通常診療では克服が困難な場合があります。当院の強みとして遺伝子診療部の存在があります。必要に応じてこの疾患の遺伝子検索を行い、ご家族を含め長期的な治療方針をご提示します。専門外来として虚血専門外来(月曜午前)、脂質外来(火曜午後)を開設したのもこの疾患への専門的治療が必要だと感じたからです。

下記プロジェクトは現在進行形のものの一部です。当診療班は国内施設の中でも多数の学会発表を継続的に行っており、長野県から最先端の情報を発信することが出来ております。今後は冒頭にも申し上げたように、最長寿の県として高齢化社会における正しい医療の在り方を世に示すような試みを続けていきたいと思っております。

冠動脈形成術 治療前 矢印の部分が90%狭窄している

治療後 点線の部分にステントが留置され血管が拡張している。

進行中の研究プロジェクト

  1. 長野県全県のPCIレジストリー研究
  2. 長野県全県のEVTレジストリー研究
  3. 重症虚血肢に対する脂肪幹細胞移植とEVTのハイブリッド治療の評価
  4. プレッシャーワイヤ―を用いた至適治療適応の検討

不整脈

2011年より不整脈先端治療学講座が発足され、県内外の不整脈診療の発展のために活動を行っています。
院内にはアブレーション治療の最先端治療機器としてCARTO system, Ensite system, RHYTHMIA system®が導入されており、心房細動に対する各種バルーン治療も全て可能な状況です。他院で治療困難であった難治性不整脈や、先天性心疾患症例、致死的不整脈に対する治療も積極的に行っております。
また、デバイス治療としてはペースメーカー、リードレスペースメーカー、
植え込み型除細動器 (ICD, SICD) 、両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器 (CRTD) の留置術は勿論、数少ないリード抜去術の認定施設となっております。近隣の病院からもご紹介頂き、リード抜去に関しても日本国内では有数な施設と自負しています。
我々の目標は、知識・技術の向上と長野県内の不整脈診療のレベルアップですが、若手教育も積極的に行っており一緒に活躍できるようにスタッフ一同頑張っています。

進行中の研究プロジェクト

  1. デバイスに関する臨床研究
    (ア)双方向性遠隔システムの確立:BIOTRONIK JAPNとの共同研究 (JST OPERA)
    (イ)遠隔モニタリングの未受信アラートに関する研究
    (ウ)4極リードを用いたCRTDの有効性についての研究
    (エ)デバイス抜去術の他施設共同研究 (JLEX)
    (オ)小児領域におけるSICDの有用性に関する他施設共同研究
  2. カテーテルアブレーションに関する臨床研究
    (ア)カテーテルアブレーション治療全例登録プロジェクト (JAB)
    (イ)RHYTHMIA system® を用いたWPW症候群に対する治療の有効性について
    の研究
    (ウ)心房細動アブレーションの有効性に関する予測因子の研究
    (エ)心房細動と洞不全症候群の関連性に関する研究
  3. 洞不全症候群症例の遺伝子検査他施設共同研究
  4. 長野県及び信州大学関連病院におけるカテーテルアブレーション症例の予後調査(Shinshu-AB Registry) 予定。

三心房心における心房頻拍のCARTO MAP
Successful catheter ablation of atrial tachycardia in cor triatriatum sinister: Heart Rhythm 2020

心不全

心不全診療について

心不全グループでは多様化する心不全診療に対応すべく、専門外来を設置して先進的医療を提供しています。さらに、激増する高齢者心不全への多角的アプローチ、トランスサイレチン型心アミロイドーシスの治療、腫瘍循環器領域診療などにも挑戦しています。

1. VAD(補助人工心臓)・重症心不全外来

2014年に植え込み型補助人工心臓(iVAD)の植え込み実施施設認定を取得して以後、毎年2-3例ずつのiVAD植え込み手術を行っています。治療の適応や術前管理方法を明確にして、植え込み前から術後早期の社会復帰を目指ししてスタッフが一丸となって患者さんの管理に努めています。スタッフは多職種により形成され、「VADチーム」として管理を行っています。
VADは心不全治療における最終手段となる侵襲的治療方法ですが、それ以前の薬物・非薬物治療の重要性は変わりません。信州大学では薬物治療として抗心不全療法を最大限に行うことはもとより、デバイス治療や、カテーテルアブレーション治療などの非薬物治療についても積極的に適応して、難治戦心不全を攻略すべく診療を行っています。

2. 肺高血圧外来

従来予後不良とされていた本疾患ですが、近年の薬物治療の発展は目覚ましいものがあります。一方で肺高血圧症の背景には症例ごとに様々な原因があり、画一的な治療法では太刀打ちできない側面もあります。当科では症例の集約化と経験の蓄積、薬物治療はもとよりCTEPHに対する非薬物療法を含めた集学的治療の提供を目的に2017年より肺高血圧外来を開設しています。
膠原病や遺伝子異常などの病因検索についても積極的に行い、隠れた原因の究明により最適な治療の提供を目指すことで、本疾患の制圧に貢献できると考えています。

3. 成人先天性心疾患外来

国内で患者数が増加している成人先天性心疾患(ACHD: Adult Congenital Heart Disease)に対応するため、当科では2013年6月から附属病院にACHD外来を設置して本領域の診療を行っています。たくさんの患者さんが外来を受診されていて、薬剤治療、定期的な画像検査のほか、心臓再手術、不整脈治療、周産期管理などを受けています。

国立循環器病研究センターホームページより

高齢者心不全への挑戦

患者数が爆発的に増加している高齢者心不全について、疾患の制圧を目標として長野県内で高齢者心不全に関する多施設共同前向きレジストリー研究を遂行中です。高齢者心不全患者の予後に関するリスク層別化や心不全入院急性期における心臓リハビリの有用性、ポリファーマシーの問題点、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の予後改善効果などの新知見を世界に向けて発信しています。

図 心不全急性期院内リハビリの効果
Int J Cardiol. 2019;293:125-130.

トランスサイレチンアミロイドーシスに対する治療

大勢の高齢心不全患者さんに潜在しており、実態がまだ解明されていないのが、野生型トランスサイレチンアミロイドーシスです。長野県は遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスの集積地を抱えており、本分野における診療の最先端を走っています。
2019年4月より始まったトランスサイレチン安定化薬による治療について、投与施設認定、実施医認定を取得しました。難治性心不全を呈する本疾患の患者さんの予後とQOL向上に寄与したいと考えています。

腫瘍循環器病領域に対するアプローチ

悪性腫瘍に対する薬物治療が多様化し生存率が向上するなか、抗がん剤治療や放射線治療による心機能低下、心不全の発症が問題になっています。当科では早くからこの問題に注目し、抗がん剤治療中の潜在性心筋障害の早期発見に心筋ストレインイメージングが有用であると報告をしています。免疫チェックポイント阻害薬による多彩な心臓合併症の早期発見が課題となっていますが、マルチモダリティーイメージングやバイオマーカー測定を活用し、がん患者さんが元気に生活できるような包括的管理の提供を目指しています。

図 ストレインによる心筋障害の早期発見
Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2012;13:95-103.

進行中の研究プロジェクト

  1. 心不全治療とHMG-CoA還元酵素阻害薬
  2. 動脈硬化性疾患・心不全とチアゾリジン誘導体(TZD)
  3. 虚血性心疾患に於ける血管新生療法
  4. 重症末期心不全患者に対する免疫吸着療法
  5. 薬剤による心機能への影響:経時的観察
  6. 血清BNP値と心機能の関係に関する検討
  7. 心房細動に対するカテーテルアブレ-ションが心機能に与える影響
  8. 虚血性心疾患患者に対するカテーテル治療が局所心機能に与える影響など

末梢血管

本邦では生活の欧米化や運動不足、肥満や高齢化の進行により動脈硬化を基礎とする血管疾患が増加しています。これは末梢動脈だけの問題ではなく、冠動脈や頭頸部の動脈疾患の合併も多く全身の血管を治療し管理していくことが目標となります。
また当院では阻血により四肢末梢に潰瘍や壊疽を伴う最重症状態である患者様の救肢、歩行の維持のために形成外科、血管外科、糖尿病内科、緩和ケア科と強力に連携し「ワンチーム」で取り組んでいます。

通常の治療で治癒が困難な患者様に対して、形成外科、血液内科、心臓血管外科、輸血部と連携し血管再生療法を行い成果を挙げています。

進行中の研究プロジェクト

  1. 長野県の末梢動脈疾患治療のレジストリー研究
  2. 重症下肢虚血に対する血管内治療と脂肪幹細胞移植の併用の研究
  3. バージャー病に対する骨髄単核球細胞移植療法
  4. 糖尿病性腎症患者における重症下肢虚血の発症リスクの検討 など

心臓リハビリテーション

虚血性心疾患、末梢動脈疾患、慢性心不全など、多くの心血管疾患を対象とする心臓リハビリテーションが稼働しています。患者のADLやQOLの改善のみならず、生命予後の改善効果がエビデンスとして確立されており、今後さらに実践と普及が必要とされる領域です。適切な医学的評価や運動処方に基づき、看護師、理学療法士、薬剤師、栄養士を含むチーム医療によって、患者一人一人の生活に寄り添いながら、日常生活活動の自立や復職、さらには再発防止や生命予後の延長を目指します。

再生医療

現在は循環器領域における再生医療の開発を目指して、ヒト万能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)を用いた心不全や心筋梗塞治療への応用の研究の他、重症下肢虚血に対し骨髄単核球細胞移植と脂肪幹細胞移植を国内の病院との共同研究という形で進めています。未だ保険適応となる治療ではありませんが、実際に著効する症例もありさらなる症例の蓄積が期待されています。
また、遺伝子治療の開発も進んでおり県内の基幹病院として令和元年度の使用開始を予定しています。

進行中の研究プロジェクト

  1. バージャー病に対する自家骨髄単核球細胞を用いた血管再生療法の研究
  2. 重症下肢虚血に対する自己皮下脂肪組織由来幹細胞を使った血管再生に関する研究
  3. 重症下肢虚血に対し、筋組織酸素飽和度をモニタリングする近赤外線分光装置を使用した至適運動療法を確立する研究