心筋症について

このページでは心筋症についてわかりやすく説明しています。心臓病の中には、「心筋症」と言われる心臓の筋肉自体に異常があって病気を起こすグループがあります。これらは時に難治性で、命を脅かすほどの重症な状態になることがありますので、きちんと病気を理解して必要な治療を受けることが大切です。心筋症には主に、心臓の筋肉が収縮する力を失って、大きく引き伸ばされてしまう拡張型心筋症と、筋肉が必要以上に肥大して不具合を起こす肥大型心筋症があります。

1.拡張型心筋症について

「拡張型心筋症はどのような病気ですか?」

心臓は収縮・拡張を交互に繰り返すことで全身に血液を送り届けるポンプとしての役割を果たしていますが,拡張型心筋症は,心臓 (特に左心室) の筋肉の収縮する力が低下し、左心室が拡張してしまう病気です 。

「患者さんは大勢いるのですか?」

平成11年の厚生省全国調査によると全国で約17,700人の患者さんが拡張型心筋症と診断されています。

 

「病気の原因はなんですか?」

これまでのところ,明らかな原因はわかっていません。ただし、最近は心臓の筋肉 (心筋) へのウイルス感染 (コクサッキーウイルス,アデノウイルス,C型肝炎ウイルスなど) や自身の心臓を攻撃する抗体ができてしまう免疫異常が拡張型性心筋症の発症に関わっている可能性が注目されております。

「病気は遺伝しますか?」

平成11年の厚生省の全国調査では約5%に家族内発症が認められました。また家族性拡張型心筋症のうち約20%に遺伝子異常が認められ,おもに心臓の収縮に関わるタンパク質をコードする遺伝子の異常でした。このため,少なくとも一部の拡張型心筋症では遺伝すると考えられます。

 

「どんな症状になりますか?」

自覚症状として動悸、息切れや疲れやすさを感じることが多いです。病気が進むと静かにしているときにも息苦しさを感じるようになり、夜間の呼吸困難で目が覚めるようになります。また、足のむくみや不整脈を伴うことがあり注意が必要です。病院で行われる検査として、胸部エックス線写真では心臓の拡大がみられ、状態が悪化すると肺にうっ血所見が現れます。心電図ではさまざまな異常所見が出ます。心エコー検査では特に左心室内径の拡大がみられ、心室壁の動きの低下もわかります。正確な診断には心臓カテーテル検査で心機能低下の原因として多い冠動脈疾患がないことを確認します。心筋生検で心臓の筋肉の組織像を調べることにより病気の原因がわかることもあります。

「この病気にはどんな治療がありますか?

心不全に対する一般的な治療としてお薬による治療を行います。ベータ遮断薬は有効であることがわかり、多くの患者さんで投与されています。また、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬も延命効果や運動能力の改善があるため、ベータ遮断薬と併用して使われています。むくみなどがある場合では、利尿薬を使います。利尿薬の一種であるスピロノラクトンは、利尿薬としてだけではなく心不全の改善効果があるとされています。一部の患者さんでは完全社会復帰が可能となる程の回復がみられますが、各種の薬剤は専門医の指示に従って継続して服用することが重要です。また、この病気は不整脈を合併することが多く、不整脈の薬や植込型除細動器が必要となることがあります。心不全に対する非薬物治療には、心臓再同期療法または心臓再同期機能付き除細動器が挙げられます。さらに心臓リハビリテーションによりQOLの改善のみならず寿命を延長することが報告されています。十分な薬物・非薬物治療を行っても心不全を繰り返すなど末期的状態では補助人工心臓の植え込みや心臓移植が考慮される場合があります。

「この病気ではどんな経過をたどるのでしょうか?」

この病気は慢性進行性のことがあり、欧米では心移植が必要となることが多く、我が国における心移植適応例の80%以上はこの病気です。厚生労働省の調査では、5年生存率は76%であり、死因の多くは心不全または不整脈です。しかし、近年薬物治療および非薬物治療が目覚ましい発展を遂げており、拡張型心筋症患者の予後はさらに改善している可能性が高いと考えられます。

 

「日常生活での注意点を教えてください」

心不全では塩分制限が重要です。軽症心不全では1日食塩摂取量を6g以下とし、重症心不全では1日3g以下の厳格な塩分制限が必要な場合があります。普段の生活では、毎日の体重測定を行い、短期間で体重増加 (例えば1週間で2~3kg以上) を認めた場合は心不全の悪化が心配なので、早めに受診する必要があるでしょう。さらに服薬の中断をすると心不全が急に悪くなることがあるため、継続してお薬を内服することが重要です。症状が安定した状態であれば、1回20~60分、週3~5回を目安に、医師の指示のもとに無理のない程度の運動(有酸素運動)を行うことがおすすめです。喫煙は心疾患において悪影響を及ぼすことが知られており禁煙を行う必要があります。また抑うつや不安などが心不全に悪影響を及ぼすことがあるため、場合によっては、専門家によるカウンセリングや治療が必要な場合があります。

2.肥大型心筋症について

「肥大型心筋症はどのような病気ですか?」

心筋症は、「心筋そのものの異常により、心臓の機能異常をきたす病気」ですが、そのうち、肥大型心筋症は、心肥大をおこす原因となる高血圧や弁膜症などの病気がないにもかかわらず、心筋の肥大(通常左室、ときに右室の肥大)がおこる病気で、左室心筋の異常な肥大に伴って生じる、左室の拡張機能(左房から左室へ血液を受け入れる働き)の障害を主とする病気です。本症の心肥大は、通常その分布が不均一であることが特徴的で、肥大の部位・程度や収縮の程度などにより収縮期に左室から血液が出ていく部位(流出路)が狭くなる場合があり、そのような場合は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。これに対する非閉塞性肥大型心筋症の他、心尖部肥大型心筋症、心室中部閉塞型心筋症、拡張相肥大型心筋症などのタイプに分類されます。診断には心エコー検査が有用で、左室肥大の程度や分布、左室流出路狭窄の有無や程度、心機能などを知ることが出来ます。なお、確定診断のため、心臓カテーテル検査、組織像を調べるための心筋生検なども行われることもあります。

「患者さんは大勢いるのですか?」

平成11年の厚生省の調査では、全国推計21,900人、10万人あたり17.3人、また、男女比は2.3:1と男性に多い傾向でした。しかし、この調査は病院を受診した人の結果であり、心エコー(超音波)検査でスクリーニングをおこなったものでは、一般人口の1/500〜1/1000人において認められるとの報告もあります。

「病気の原因は何ですか?」

心筋細胞の中に、心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白という一群が存在するのですが、この蛋白をコードしている遺伝子の変異が主な原因です。家族性の肥大型心筋症の約半数でこれらの遺伝子の変異が認められますが、残りの約半数の原因は未だ不明です。サルコメア遺伝子の変異が肥大型心筋症を引き起こすメカニズムについては不明な点が多いのですが、心筋細胞の中の様々なシグナルが複合的に関わっていることが明らかになりつつあります。

「病気は遺伝するのですか?」

家族性の発症が約半数に認められます。多くは常染色体性優性遺伝の形式で遺伝し、前述したサルコメア遺伝子の変異が主因であることが知られています。家族内発症がない方でも、同様な遺伝子異常を有する場合がありますが、原因不明の方も少なくありません。

「どんな症状がでるのですか?」

肥大型心筋症では大部分の患者さんが、症状が無いかわずかな息切れ症状を示すだけのことが多く、偶然検診で心雑音や心電図異常をきっかけに診断される場合が少なくありません。症状がある場合には、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難・胸の圧迫感などがあります。「失神」は重篤な症状とされ、不整脈による以外に、閉塞性肥大型心筋症の場合には、運動時など左室流出路狭窄の程度が悪化し、全身に血液が十分に送られなくなることによって生じます。また、約5-10%の患者さんでは徐々に左室収縮能の低下と左室拡張がおこり、拡張相肥大型心筋症と呼ばれる病態に移行することがあります。拡張相肥大型心筋症に移行すると、多くの方が心機能低下に伴い呼吸困難や動悸など様々な症状を自覚します。

「どんな治療をするのですか?」

一般療法として競技性の強い過剰な運動を避けることが必要です。また、閉塞性肥大型心筋症例での流出路狭窄の程度は運動中よりも運動直後に強くなるといわれ、失神や突然死は、運動中のみならず運動直後にも見られることに注意が必要です。薬としては、左心室を拡がりやすくするためにベータ遮断薬やカルシウム拮抗薬を用います。心房細動という不整脈になると、心不全が急に悪化したり、血栓塞栓症を生じたりすることがあります。このため、不整脈を抑える薬や血を固まりにくくする抗凝固療法が用いられます。また、拡張相肥大型心筋症では、心不全の治療を目的に、利尿薬や血管拡張薬などが用いられます。突然死の原因となる重い不整脈に対しては、不整脈を抑える薬、さらに植込み型除細動器が必要となることもあります。このほか、左室流出路狭窄の著しい例では、エタノール注入による心筋の焼灼術や外科的に厚くなった筋肉を切除することもあります。

「病気の経過を教えてください」

一般に病気の経過は良好で、全く無症状のまま天寿を全うする方も少なくありません。一方で、症状の有無にかかわらず危険な不整脈や、徐々に心機能低下が認められることがあるため、定期的に専門医の経過観察を受けることが大切です。死因として、若年者では突然死、特に運動中の突然死が多く、壮年~高齢者では心不全死やとくに心房細動などの不整脈を合併した場合など心臓内に生じた血栓による塞栓症による死亡が多いとされています。拡張相肥大型心筋症に移行した患者さんのうち重症の一部では、心臓移植が必要となることがあります。

「日常生活の注意点を教えてください」

競技性の強い過剰な運動は突然死につながる場合があるため禁止する必要があります。また、心臓の機能が低下した方では、塩分制限が必要になることもあります。

当日受診が必要と思われる場合

夜間・休日受付を含む
胸痛センターホットライン(24時間対応)
電話 0263-37-2222(高度救命救急センター内)

翌日以降の受診で問題ない場合

外来予約 etc.
循環器内科 地域医療連携室(平日・日中の受付 8:30〜17:30)
電話 0263-37-3487 または 0263-37-3486(医局)
FAX 0263-37-3489