肺高血圧症

肺高血圧症の患者数は決して多くはありませんが、命に関わる重篤な病気です。以前は治療法がなく診断をされてから数年で亡くなってしまう病気でしたが、近年は治療法が進歩し、正確に診断し適切な治療を行えば、息切れなどの症状が改善し、長く生きられるようになってきました。しかし、まれな病気であるがゆえに専門医が少なく、重症になるまで診断されない例や、診断されずに見逃されている例も少なくありません。肺高血圧症の診断や治療は一般に思われているほど簡単なものではなく、高度な専門性を必要とします。当院では肺高血圧症患者に高いレベルの医療を提供するために、2017年から肺高血圧専門外来を開始しました。膠原病内科、呼吸器内科、消化器内科、心臓血管外科との院内連携はもちろんのこと、長野県内の病院やクリニックとも積極的に情報交換し、肺高血圧患者が見逃されることなく最適な治療を受けられるように勤めています。また、当院遺伝子医療研究センターとの連携や、国内の肺高血圧専門施設と情報交換を行い、最高レベルの医療を提供できるように努めています。

肺高血圧症とは

肺高血圧症は、心臓(右心室)と肺をつなぐ血管である肺動脈の血圧(肺動脈圧)が上昇する病気です。肺動脈圧が上昇すると、肺に送り込まれる血液量が減少し、肺からの酸素の取り込みが低下し、息切れが生じます。また肺動脈圧が高い状態が持続すると、右心室が疲労して機能が低下します(右心不全)。右心不全になると、全身から血液を十分に回収できなくなり、むくみが生じます。さらに重症になると、失神や喀血を来すことがあります。

肺高血圧症の早期診断・早期治療の重要性

肺高血圧の診断は、カテーテル検査で肺動脈の血圧(肺動脈圧)を測る必要があります。健常人の平均肺動脈圧は20mmHg以下で、平均肺動脈圧25mmHg以上が肺高血圧と定義されています。しかし実際には、肺の血管のダメージが3分の2以上にならないと肺動脈圧は上昇しません。すなわち、肺動脈圧が上昇し肺高血圧症と診断された時点では、すでに3分の2以上の肺の血管がダメージを受けており、病気自体は相当に進行しているということを意味します。肺動脈圧がさらに上昇し重症化すると、有効に機能する肺の血管はほとんど残っていません。したがって肺高血圧症では、他の病気以上に早期発見・早期治療が重要になります。

肺高血圧の原因

肺高血圧症を引き起こす病気は多岐にわたり、遺伝的素因、膠原病、薬剤性、肝疾患、先天性心疾患、心不全、肺疾患、血栓性など様々です。原因によって治療法が異なるため、原因となる疾患を正確に診断することが重要ですが、原因疾患が複数あることも稀ではなく、高度の専門性を必要とします。したがって、専門施設で幅広く精査を受けて総合的に診断されることが推奨されます。当院では、診療レベルで遺伝子検査も行なっており、国内有数の診断レベルを有する医療を提供しています。

肺高血圧の治療

肺動脈性肺高血圧症の治療は、肺血管拡張薬で肺の血管を広げ、肺動脈圧を下げることが中心になります。肺血管拡張薬は、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬/可溶性グアニル酸シクラーゼ、プロスタサイクリンの3系統があります。一般的には、早期から複数の薬剤を組み合わせて投与することで良好な治療成績が得られることがわかってきています。しかし、病態によっては1剤ずつ治療反応性を評価しながら慎重に治療を進めていく必要がある場合も少なくありませんので、専門医が治療計画を立てて進めていくことが推奨されます。重症例では、プロスタサイクリンの注射薬が必要になります。カテーテルを血管内に留置して静脈に薬を投与する方法、腹部などの皮膚に小さな注射針の付いたシールを貼って皮下に投与する方法があります。いずれの場合も24時間持続投与が必要ですが、効果は強力です。重症例では、早期からプロスタサイクリン注射薬を併用することが重要です。この点からも、肺高血圧専門医による適切な判断を必要とします。

肺動脈性肺高血圧症の中でも、膠原病(全身性エリトマトーデス、混合性結合組織病、シェーグレン症候群)が原因疾患の場合は、肺血管拡張薬を使う以外に、免疫抑制療法が重要になります。ステロイド投与に加え、シクロホスファミド大量静脈投与によって強化免疫抑制療法を行うことで、肺動脈圧が正常化する例も少なくありません。強化免疫抑制療法も遅れると効果が乏しくなりますので、やはり早期治療が重要です。強化免疫抑制療法の適応判断には、肺高血圧症に精通した医師の判断が不可欠です。

肺高血圧症の中でも、血栓が原因で肺高血圧となっている慢性血栓性肺高血圧症(CTEPH)では治療法が異なります。肺血管拡張薬も使用しますが、新たに血栓ができないように抗凝固療法を行います。そして、治療の中心は、肺動脈にできた血栓を取り除く肺動脈内膜摘除術(PEA)、血栓をカテーテルで壊す肺動脈バルーン形成術(BPA)になります。血栓が肺動脈の中枢側にある場合はPEA、血栓が肺動脈の中枢側になく末梢が主体である場合はBPAが行われます。日本人の場合は末梢型が多く、カテーテル治療の方が身体への負担も少ないため、BPAが行われることが多くなっています。当院でもBPAを中心にCTEPHの治療を行なっています。しかし、中枢側に血栓がある場合はPEAが非常に有効で、第一選択の治療になります。国内にはPEAを行うことができる外科医が非常に少なく、PEAができる施設は限られていますが、当院では最適な医療を提供するためにPEAが必要な患者さんには、心臓血管外科の協力のもとPEAの経験が豊富な外科医を招聘し手術を行なっています。

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